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Wednesday, October 19, 2022

「TikTok」でかなえるハリウッドの夢 本木真武太さん×綿矢りささん - 朝日新聞デジタル

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世界的人気を誇るショートムービープラットフォーム「TikTok(ティックトック)」で活躍中のクリエイターに迫る本企画。記念すべき第1回は小説家の綿矢りささんを迎え、カンヌ国際映画祭の「#TikTokShortFilm コンペティション」でグランプリに輝いた本木真武太さんにお話をうかがいました。小説家とTikTokクリエイターの対談、一体どんなお話が飛び出すのでしょうか。

PROFILE

「TikTok」でかなえるハリウッドの夢 本木真武太さん×綿矢りささん

本木真武太

もとき・まぶた 映画監督・ビデオグラファー。映像制作会社LANG PICTURES代表。1988年長野県生まれ。2022年、短編映画「木って切っていいの?」が「第75回カンヌ国際映画祭」#TikTokShortFilmコンペティションのグランプリに輝く。「TikTok TOHO Film Festival 2022」では「おま釣り騒ぎ」がテクニカル賞を受賞。

「TikTok」でかなえるハリウッドの夢 本木真武太さん×綿矢りささん

綿矢りさ

わたや・りさ 小説家。1984年京都府生まれ。2001年「インストール」(河出書房新社)で文藝賞を受賞してデビュー。2004年「蹴りたい背中」(河出書房新社)では、史上最年少で芥川賞を受賞。「インストール」をはじめ、2020年「私をくいとめて」(朝日新聞出版)など、映像化作品も多い。近著に「嫌いなら呼ぶなよ」(河出書房新社)。

「表現方法を見たら、すごく人を信じる方なのかな、って」

綿矢:本木さんの映像、拝見しました。こんなに凝った作品を気軽に見られるのが「TikTok」の魅力だと改めて思ったんですが、そもそもどんなきっかけで映像の道に進んだのでしょうか?

「TikTok」でかなえるハリウッドの夢 本木真武太さん×綿矢りささん
綿矢りささん

本木:幼いときから絵を描いていて、ものをつくるのが好きだったんです。映像の世界をはっきりと意識したのは、10歳のとき。家族と1年間暮らしたカナダの映画館で、「アルマゲドン」を見たときでした。英語もわからないのにすごく感動して、ボロボロと涙が出てきて。そこで自分が「こういうのを作りたい、作るんだ」って思ったんです。

綿矢:絵と映像、同じクリエーションでもまた異なるジャンルですよね。

本木:僕が絵のモチーフにしていたのは妖怪やモンスターで、レンタルショップで借りた「ゲゲゲの鬼太郎」やキョンシーが出てくる映画のビデオからインスピレーションを得ていました。映像を見て「こういうの描きたい」と思い、紙に起こすという感覚だったので、絵も映像もつながっているんですよね。カメラが簡単に手に入らない、というのもありましたが。

「TikTok」でかなえるハリウッドの夢 本木真武太さん×綿矢りささん
本木真武太さん

綿矢:キョンシー! 私も子どものころ、すごく好きで毎日のように見ていました。おかげで中華系ホラーに興味をもったので、影響を受けているという点で共通していますね(笑)。本木さんの作品って、ちょっと怖い人が登場したりするじゃないですか。「この人、どんな人なんだろう」って、見ていて不安になるんだけど、ホラー好きだとそこに引きつけられるのかなって。

本木:まさにそうなんです。僕は悪いもの、怖いものの中に人の本質が一番見えると考えていて。ヒーローも好きだけど、悪役が出てくると「なんで悪いことするんだろう」って、子供のころから気になっていました。怖いもの、気持ち悪いものには、いまだにすごく興味あります。

綿矢:それでも、作品に出てくる怖い人は、最終的にひっくり返りますよね。最初に抱いた怖いという感情から、心があったかくなるような形に変わる。私は懐疑心が強いタイプなので、ああいう人物を出すと確実にろくでもない方向へ進むお話を作ってしまうんですけど、本木さんの表現方法を見たら「すごく人を信じる方なのかな」って感じました。

「TikTok」でかなえるハリウッドの夢 本木真武太さん×綿矢りささん

本木:え、すごい! 当たっています(笑)。悪い人も元から悪いわけじゃなく、何かしらきっかけがあったからだと思っていて。同じ状況に陥る可能性は誰にでもあるので、悔い改めることで許される救いみたいなものは表現していきたいですね。

これは、母がクリスチャンであることと、カナダにいたころに通った日曜学校の影響もあると思います。聖書って「信じる」がテーマなんです。これが脚本に根付いているから、ハリウッドや韓国の映画には心を動かされると思っているので、自分の作品でも意識するようにしています。

「小さな縦型の画面でも、映画と同じようにワクワクして欲しい」

綿矢:私も「TikTok」が好きでよく見ているんですが、本木さんの作品は他とは違うように感じます。たとえばオープニング。短時間の映像なのに遠景で撮っているからなのか、一般的な映画みたいにゆったり見ていられるんです。

本木:ありがとうございます。「TikTok」ユーザーはスピード感のある映像に慣れているので、テンポが良くなるように編集したりもしますが、基本的には映画と同じように最後まで見て欲しいと思っていて。小さなスマホ画面で、しかも縦型の映像という違いはありますが、映画館の席に着いて「これから何が起こる?」とワクワクしてもらいたいですね。

「TikTok」でかなえるハリウッドの夢 本木真武太さん×綿矢りささん

こういうシネマチックなコンテンツを作ることは、撮るときにすごく意識しています。映画では24フレームと言って1秒間に24枚のフィルムを使うので、同じ24フレームで撮影したり。色もオレンジを載せ、明るさを調整して映画でよく見る色味にしていますね。

綿矢:通常の映像作品と「TikTok」の作品とでは、いろいろ違いがありそうですね。

本木:まず、撮り方が横型から縦型に変わること。以前は横で撮ったものを縦枠にはめたりもしましたが、それだと映像のサイドが失われてしまいます。切り取る部分によって構図が変えられるので、編集時の自由度が上がるというメリットもあるんですが。3部作の「おま釣り騒ぎ」という作品は、完全に縦型で撮影しています。

綿矢:縦か横かを意識して見たことはなかったけど、確かにテレビなどの画面とは違いますね。たとえば「おま釣り騒ぎ」で釣り人が上下に移動するシーンも、横型ではあんな映し方はできない。

「おま釣り騒ぎ」Ep.1

本木:「TikTok」は音楽ありきという部分が大きいので、そこもすごく意識しています。あとは、ユーザーの反応が早くてすぐにコメントが読める点。僕にとってはとても重要で、見た人の反応はすごく参考になるし、スキルアップにもつながるので、あえてコメントしやすいものを映像に入れたりもします。意見をすぐに反映したり、次の作品に生かしたりもできるのでおもしろいですね。

綿矢:本の場合、まとまった感想文はあっても1行1行に対する反応はないので、おもしろそうですね。でも、それより緊張の方が大きいかも(笑)。電子媒体では感想を書き合えるものもありますが、結構ビビっちゃうと思います。

本木:僕も最初のころは怖いという気持ちがありましたが、慣れると楽しみだし、あえてツッコんでもらうように作ったりもしていますね。「TikTok」には良くない言葉遣いのコメントをはじく機能もありますが、フィルタリングではじかれたコメントも僕は載せちゃってます。見た人にも、いろんな意見を知って欲しいなと思うから。

「キャストの人選がどハマり。本当にいそうな外見と性格」

綿矢:どの作品も、キャストの方たちの人選がどハマりしていますよね。本当にいそうな外見と性格で(笑)。どうやって見つけるんですか?

本木:実はプロではなく、僕の兄妹や友人にお願いして出てもらっています。ちなみに、「おま釣り騒ぎ」に悪い人っぽく出ているのは、ウチの兄貴なんですよ。

「TikTok」でかなえるハリウッドの夢 本木真武太さん×綿矢りささん

綿矢:そうなんですか! 上手なので、俳優さんかと思っていました。セリフ回しやしゃべり方、すごくこなれていますよね。「木って切っていいの?」に登場するお兄さんも、めっちゃ怖かった……。

本木:あれ、僕です(笑)。

綿矢:えっ、そうなんですか!? それは意外です。あの不穏な感じがおもしろかったので、今度、本木さんご自身が考える「おもしろいおばさん」的なキャストも出して欲しいですね。今のところ男性キャストの方が多くて、「おもしろいおじさん」も出てくるので。

「木って切っていいの?」

本木:今後、製作費が出るようになれば、プロの方にも出て欲しいですね。若いときに演劇をしていたとか、演劇部だったとかでもいい。そういう人と一緒に、またカンヌへ行きたいですね。

綿矢:すごい人材を発掘してくれそう(笑)。身近に感じる人物を上手に撮る方だと思ったので、今後の作品でさらにたくさんの人の魅力を知りたいと思います。

「スマホの小さな画面から、スケールの大きな物語を」

綿矢:これから5年後、10年後、本木さんはどうなっていたいですか?

本木:ゆくゆくはハリウッド映画を作りたいという大きな目標があるので、ガチで目指したいですね。やはり映画監督ですから。縦型映画というジャンルはまだないので、その代表格みたいな存在になれれば、歴史にも名を残せると思います。ハリウッドで、スマホの小さな画面からものすごく大きなスケールのストーリーを生み出すのが夢なので、自分がまだ若いうちにやっていきたいですね。

綿矢:「TikTok」と連携することで、その夢に対してできることもありそうですよね。

「TikTok」でかなえるハリウッドの夢 本木真武太さん×綿矢りささん

本木:「TikTok」のすごく好きなところって、僕たち「LANG PICTURES」の名前を知らない世界中の人たちにおすすめとして拡散してくれるところなんです。これも他のプラットフォームとは違う点。ハリウッド映画という夢をかなえるには、広く知られていく必要があるので、これからも「TikTok」で発信し続けたいですね。

綿矢:縦型映画というジャンルを普及させるには、映画館も必要に?

本木:ですよねぇ。横型に比べると、縦型の画面は情報量が少ないのでスッと理解できる半面、ワンカットが長いと飽きて次の動画に移動しちゃうんです。5分、10分くらいなら没頭して見られるとは思いますが。あと、スマホの画面で人の顔をアップにするのはインパクトあるけど、スクリーンだと周囲に余白があるので印象が弱くなります。その辺りがどうなるか、楽しみでもありますけどね。

綿矢:なるほど。マンガもそうだったように、ツールによって変わっていく。きっとそうやって、新しい表現の形も生まれてくるんでしょうね。

本木:綿矢さんの小説は映画化されたものもありますが、やはり映像になることを見越して書かれたんですか?

綿矢:なんでこれが映像化されたのかなって、不思議なくらいです。登場人物の思考だけ、みたいな、文字でしか成立しないような作品がって。そして、映像化を意識した作品はお声がかからない(笑)。

本木:映像化された作品に対して、どう感じます? 本と映画では、表現の違いなんかもあると思うんですが。

「TikTok」でかなえるハリウッドの夢 本木真武太さん×綿矢りささん

綿矢:私の場合、映像化したものは違う作品だと思って見ています。題名が一緒でも別。でも、自分が書くだけあって好きなテーマなので、見ていて楽しいですね。違和感があるとすれば、自分の頭の中に浮かべていたキャラクターを役者さんが演じることで、美化されること。「あの子、こんなにきれいやったん!?」って驚いたりしていますね(笑)。

本木:そうなんですね(笑)。ご縁があれば、一緒にお仕事できるとうれしいと思って質問させていただきました。

綿矢:ありがとうございます、ぜひぜひ! それでは最後に、ファンの方とクリエイターを志す方にメッセージをお願いします。

本木:僕が学生のころと違って、今や誰でも手軽に表現できる時代。だからこそ、「TikTok」のような場を使って、挑戦してみるのがいいと思います。僕もカンヌでグランプリをとるまでは、誰にも知られていない存在でした。それでも、世界中の人が見ている「TikTok」から道が開けることもあるので、まずはやってみるのがいいんじゃないでしょうか。

その他の本木さんのTikTok作品はこちら

構成・文:石川由紀子
写真:山田秀隆

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