有害図書を巡る規制の現状は、「表現の自由」を保障する憲法に照らして問題はないのだろうか。表現の自由に詳しい憲法学者の志田陽子・武蔵野美術大教授に聞いた。
「有害図書」規制のあり方を有識者に聞く連載は、以下のラインアップで配信する予定です。
▽漫画のエロ・グロ表現で犯罪が起こる? 「はじめの一歩」作者の憂い
▽“寸止め”パンチでボクシング描けない 有害図書規制と表現の萎縮
▽「表現の自由のため」じゃない 漫画家が有害図書規制と闘うワケ
▽科学的根拠ない「萌え広告」規制はダメ 議員になった漫画家の警鐘
▽性表現は「理性的な基準で吟味を」 憲法学者がみた有害図書規制
▽都の不健全図書を審査していた栗下善行・元都議
▽性表現の歴史に詳しい白田秀彰・法政大准教授(情報法学)
▽性愛表現のある少女向け作品で人気を博したマンガ家・里中満智子氏
人は簡単に口を閉ざす
――表現の自由はなぜ重要なのですか。
◆個人の人格形成や自己実現と同時に、民主主義社会に不可欠な権利だからです。学問の探究や、紛争の平和的解決にも必要です。
何より表現の自由はとても萎縮しやすいので、憲法や法律で手厚く保護しなくてはいけません。特に公共的な空間で言論が規制されると、人は保身のため簡単に口を閉ざします。そのため、表現の自由は守らねばならないというのが原則です。
――有害図書規制は原則に反しますか。
◆言論には「思想の自由市場」という概念があります。公権力や宗教権力が異論を排除するのではなく、自由市場の参加者である私たち自身が互いの思想や言論を批判し合って切磋琢磨(せっさたくま)する、という考え方です。
そこでは、悪質な表現を含む図書は結果として売れなくなり、自然に淘汰(とうた)されることが期待されます。これは表現の自由の一場面として容認されていることなのです。
ただ、淘汰には長い時間がかかります。そのため青少年の健全な成長を阻害する図書を迅速に除外しようと規制するのは、公権力の正当な活動といえるでしょう。
とはいえ、あくまで原則は表現の自由を守ること。規制にはよほどの理由が必要です。どういう図書が青少年の健全な成長を害するのか定義が曖昧だったり、規制がきつすぎたりすると、表現の自由を不用意に圧迫してしまいます。
――具体的には。
◆例えば、薬物使用の場面を描いた創作物を規制するなら、実際に深刻な害を引き起こす薬物へ誘引する表現に絞り込むべきです。そうしないと「薬物はどれも非常に危険だ」とみんなが無条件に思い、薬物使用を擁護した人も「準犯罪者」として指弾される。(それを恐れて誰も発言しなくなれば)言論の萎縮です。
この場合、「薬物から青少年を守る」という本来の目的の達成には、表現規制よりも、薬物の標的となりやすい環境にいる青少年への支援を優先すべきではないでしょうか。これはDV(家庭内暴力)や虐待についても同様です。福祉政策は有害図書規制よりコストがかかりますが、自治体は真剣に検討してほしい。
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からの記事と詳細 ( 性表現は「理性的な基準で吟味を」 憲法学者がみた有害図書規制 - 毎日新聞 )
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