未経験のきびなご。
ずっと気になっていたきびなご。
いろいろ調べていたら、きびなごの旬は冬ということで、「今季こそきびなごを食べてみよう」と行動に移しました。
都内在住の身としては、同じく冬の味覚である牡蠣をいただけるお店は多いけれど、きびなごとはそうそう出会えない。
国内では、ほぼ鹿児島を中心とした九州の海でしかきびなごは獲れないとのこと。
そこで空輸できびなごを取り寄せている数少ないお店を都内で探しました。
そして、見つけたのがこちら。
港区のおしゃれな街、南青山にある居酒屋「きばいやんせ」。
「きばいやんせ」とは、鹿児島弁で「がんばってください」の意味だとか。
鹿児島県出身のオーナーが開いたお店で、ドアにかけてあるTシャツにプリントされているのは、言わずと知れた薩摩藩士の西郷隆盛。
ここの正式な店名は「霧島地鶏 きばいやんせ」。そう、メイン料理は宮崎県の地鶏なんです。でも、今回は「旬のきびなご料理をぜひ!」と取材をお願いしました。
鮮度が命のきびなごは生で空輸できない
調理をしてくださるのは、店長の橋口祐二さん。霧島地鶏と同じ宮崎県の出身です。
今日作っていただくきびなご料理は、年間を通じてメニューにある3品。
- きびなご刺身(858円)
- きびなごの天麩羅(638円)
- 鹿児島きびなご塩焼(528円)
──東京では希少な魚なのに、かなりお安いですね。
橋口:きびなごは単価が安いのも魅力なんです。鹿児島では魚屋さんやスーパーでも普通に売っていて、庶民に親しまれていますから。
──仕入れはどうしているんですか?
橋口:きびなごは鹿児島の阿久根市から冷凍したものを取り寄せています。刺身用のきびなごは、あらかじめ開いた状態で送られてきます。
──鮮度が命だから、冷凍するしかないんですねぇ。
橋口:きびなごは鮮度が落ちるのが早いので、生で空輸するのは無理なんですよね。
瞬間冷凍で獲れたての食感を保つ刺身
▲「きびなご刺身」1人前は10匹。光沢だけでヨダレを誘います
橋口:酢味噌で召し上がってください。
──鹿児島ではたいてい酢味噌で食べるんですか?
橋口:はい。でも、東京のお客さんのために、生姜醤油も用意しています。
人生初きびなごです。
酢味噌と合いますねぇ。身がプリップリ! 味は淡白で臭みは皆無。や、こんなうまい刺身、なんでもっと早くに探して食べなかったの!? と我に問いかけてしまいました。
生と冷凍物を食べ比べたわけではないけど、釣ったばかりの魚をさばいたような食感です。
橋口:鹿児島に、鮮度を保てる瞬間冷凍の特許を持っている業者がいるんです。
──なるほど。家庭用の冷凍庫ではこうはいきませんか?
橋口:冷凍焼けするでしょうし、瞬間冷凍したものでないと、解凍したときにビチャビチャになっちゃうんですよね。
レアで味わう外はカリカリ、中はフワフワの天麩羅
続いては天麩羅。姿のまま冷凍して届いたものを使います。
橋口:衣は天ぷら粉を炭酸水で溶いたものです。
──真水よりも炭酸水がいいんですか?
橋口:衣がふっくらしますね。
▲油は180度に熱した白絞油(菜種油を精製したもので、いわゆる「天ぷら油」)
揚げ時間はほんの2〜3分。火の入れ過ぎに注意。
▲「きびなごの天麩羅」1人前は8匹。食欲をそそる黄金色
皿に盛った岩塩をつけていただきます。
刺身では得られなかった、白身魚ならではの甘みがある味。外はカリカリ、中はフワフワ。骨なんてヤワヤワです。
いやぁ〜、レアで味わうきびなごの身。うまいわぁとしか言えませんわ。
遠火でじっくり焼いた香ばしい風味の塩焼
最後は塩焼でいただきます。使用するきびなごは天麩羅と同じく姿のまま冷凍したもの。
ちっこくて可愛いきびなごたちにシュッシュと日本酒を噴霧。
橋口:日本酒をかけると焼き目が綺麗に出て、身が柔らかくなります。
焼き塩をパラパラ。
炭火で焼いていきます。途中でひっくり返し、遠火でじっくりと、片側数分といったところ。塩は両面に振りかけます。
ほどなく、いい香りが厨房に充満してきました。
▲「鹿児島きびなご塩焼」1人前は12匹。いい焼き色です
味付けは焼くときに振った塩のみ。
うまい!
焼いた際に生まれる香ばしさが、そのまま舌に広がります。
レモンをしぼって味変も楽しみました。
きびなごと焼酎の相性は抜群
本日の3品は芋焼酎のロックとともに堪能しました。
鹿児島出身のオーナーと宮崎出身の店長のお店なので、当然のように焼酎がウリ。豊富な焼酎類は、9割が芋焼酎で、あとは麦と黒糖とのこと。
──鹿児島で「酒」といったら日本酒ではなく焼酎を指すと聞きましたが。
橋口:もちろんです! 鹿児島の飲み屋さんに入ったら、ちゃんと「日本酒」と注文しないと日本酒は出てこないです。
──きびなごをつまみに、焼酎をどうやって飲むお客さんが多いですか。
橋口:お湯割り、ロック、水割り、いろいろです。きびなごと焼酎の相性は抜群ですからね。日本酒のように熱燗で頼むお客さんもいますし、近年は炭酸割りも多いですね。
▲自社ブランドの芋焼酎「きばいやんせ」(グラス660円・ボトルキープ4,400円)
──きびなごの旬の時期は12月から2月あたりですか?
橋口:そうですね。実は冬場だけではなく、夏前の産卵期にも旬があるんです。5月になると子持ちのきびなごが食べられます。
──お店はいつオープンしたんですか。
橋口:もともと渋谷区の神宮前2丁目でやっていたんです。向こうで20年。こっちに移転して2020年で5年目です。
──橋口さんはいつからここで働いているんですか?
橋口:約18年です。もともとは客だったんですよ。それでオーナーと知りあって、いろんな流れで転職したんです。
──きびなごはオープンと同時に提供を始めたんですか?
橋口:今の店舗に移ってからです。前の店舗よりも広くなったので、地鶏以外にも何か名物料理をということで始めたんです。きびなごを扱っているお店が東京にはそんなになかったですしね。
──きびなごを注文されるお客さんは九州の方が多いんですか?
橋口:長いことやっているうちに、東京出身の方も含め、いろんなお客さんに楽しんでいただいています。鹿児島の方には「田舎に帰ってきたみたいだ」と言っていただくことが多いです。
──ネット通販でも冷凍物のきびなごが買えますけど、家庭で楽しむにあたって、先ほど教わった調理のポイント以外で、アドバイスはありますか?
橋口:必ず自然解凍してください。あと、焦げやすいので、焼くときは必ず弱火で。まあこれくらいですね。なにせシンプルな食材ですので。
──シーズンによって豊漁、不漁の波はあるんですか?
橋口:不漁は聞いたことがないですね。定置網でほかの大きな魚を獲ろうとしても、必ずきびなごがたくさん混ざってますからね。
──目の粗い網からいっぱいこぼれているきびなごの映像を見たことがあります。
橋口:そうですそうです。それを海鳥が狙って捕食しますし、海の中ではアジやサバ、カツオなど多くの魚が好んできびなごを食べます。
──おいしく生まれてきただけに天敵が多いんですね。しかし、イワシなどと変わらない低価格が本当にうれしいです。
橋口:鹿児島のお客さんも多いので、今以上の値段にすると厳しいんですよ。
──鹿児島だともっと安く食べられるということですか?
橋口:そうなんですよ。神宮前2丁目から南青山に移って家賃は上がったんですけど、何とか企業努力をして、ほかのメニューも値上げはしていないんです。常連さんの7割くらいがこちらにも来てくださっていますしね。
──鹿児島県人にとって、きびなごとはどういう存在なんでしょうか。
橋口:代表的な薩摩料理のひとつとして、みんなが知っている存在ですね。「鹿児島に旅行に行ったら何を食べたらいい?」と聞かれたら、いつも「きびなごのお刺身」と答えるくらいです。手開きでさばいた鮮度のいいきびなごを、すぐに食べられるのは地元くらいですからね。
──小さい魚だから包丁はいらないんですね。
橋口:指と爪で簡単にワタを取れます。鹿児島のお寿司屋さんに行くと、きびなごのにぎりも食べられますよ。
旬のきびなご料理を食べたくなったら
小さいわりに可食部が多いのも魅力のきびなご。
本日はたっぷりと堪能しました。
鹿児島の甑島(こしきしま)には、「キビナゴン」というゆるキャラがいるほど、きびなごは県民に親しまれています。
はるか遠い東京で、そんなきびなごを赤ちょうちん感覚でお手軽に味わえるお店があったとは……「きばいやんせ」に感謝です!
撮影:松沢雅彦
店舗情報
霧島地鶏 きばいやんせ
住所:東京都港区南青山3-2-3 カトレアビル1F
営業時間:月~金・祝前日17:00~翌2:00(L.O翌1:30)土・日・祝日17:00~翌0:00(L.O. 23:30)
電話:050-5285-6702
定休日:なし
書いた人:沢木毅彦
インタビュー、映像作品レビュー、企業取材、配信サイトの番組紹介などをやっているライター。居酒屋でスマホいじりながらの一人飲みが最大の贅沢。食事は自炊派で、作るのが簡単な麺類を愛好。米のごはんは週1回程度でOK。その際は納豆か卵は必須。外食ならラーメンは天下一品のこってり、カレーはcoco壱番屋の10辛。激辛好き。巨人ファン。
からの記事と詳細 ( 鹿児島県民のソウルフード「きびなご」のポテンシャルがすごかった - メシ通 )
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