佛教大学副学長・教育学部教授 原 清治
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「ネットいじめ」という用語が登場したのは、2000年代の初めだと言われています。長崎県佐世保市で小学6年生の女子が、インターネット上の掲示板のやりとりの齟齬(そご)から同級生を刺殺してしまったのは2004年のことです。この時は「ネットいじめ」という用語は出てきませんでしたが、インターネット上のやりとりが子どもたちの生死に関わる事件になった出来事として知られています。
ここから東日本大震災が発生する11年までが、いわゆるネットいじめ初期の段階であると指摘されています。06年からは文科省のいじめ調査にネットいじめに関する項目が追加され、その件数はいったん07年に増加しますが、それ以降しばらくは減少傾向にありました。初期のネットいじめは、特定の個人に向けて「ウザイ」「キモイ」「死ね」といった言葉を向けるものが多くを占めており、その舞台はメールやプロフ(モバイル上にプロフィールを作成できるサービスの総称)、学校裏サイトなどでした。ただ、こうした直接型のネットいじめは、フィルタリングの導入や学校裏サイトなどの監視システムの導入などによって次第に減少していきました。
それに代わる形で12年以降に目立ってきたのは、特定のグループ内だけで通用する「ネタ」として特定の個人をネットで笑いの対象にしたり、キーワードを用いて誹謗(ひぼう)中傷したりする、いわば間接型のネットいじめです。この時期になるとTwitterやLINEなどのSNSも高校生を中心に浸透し、名前を出さなくても読んだ人には分かるような形で個人の悪口、「いじり」のような書き込みが見られるようになりました。
こうした間接型のネットいじめの増加により、加害者側の匿名性が高まっていることも指摘できます。直接型は、親しい友人間でのトラブルを起因とするものが多く、相手を「ほぼ特定できた」割合が高い状況でした。しかし、近年は相手を「まったく特定できなかった」割合が高くなっています(表参照)。被害者側にとって、見えない相手からの攻撃による心理的ダメージは計り知れません。
さまざまなSNSを用いて気軽にネット上に動画や画像を投稿できるようになった点も、ネットいじめの増加に拍車を掛けたと言えるでしょう。自分の思うままに投稿して炎上するケースや、「いいね!」と言われたい承認欲求から取り返しのつかない素材がネット上に出回るケースなど、子どもたちのネットモラルの脆弱(ぜいじゃく)さが指摘できます。
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